不動産投資を始めるにあたり、必ず確認すべきことが「利回り」です。利回りはどの程度の利益を得られるのかを把握する重要な情報であるため、事前にシミュレーションしましょう。
利回りがマイナスになる場合、その物件を保有していると赤字が発生し続けることを意味します。不動産投資を成功させるためにも、利回りの種類や計算方法などを把握しましょう。
- 「表面利回り」「想定利回り」「実質利回り」の違いについて
- 利回りの相場について
不動産投資における利回りは3種類

「利回り」とひとことで言っても、不動産投資における利回りには3つの種類があり、それぞれの意味と計算方法が異なります。
表面上の利益を示すものから、より実態に近い収益性を示すものまであり、その違いを理解せずに比較してしまうと「思っていたほど儲からなかった…」という失敗にもつながりかねません。
ここでは、不動産投資で押さえておきたい3つの利回り「表面利回り」「想定利回り」「実質利回り」の特徴と計算方法をわかりやすく解説します。
表面利回り
表面利回りとは、投資用不動産の購入価格に対して、満室稼働を前提とした年間家賃収入がどのくらいの割合を占めるかを示す、最も基本的な利回りです。
不動産の広告などでよく見かける利回りは、ほとんどがこの表面利回りを指しています。

グロス利回りとも呼ばれます。
表面利回り(%)=年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100
例えば…
購入価格2,000万円の物件で年間家賃収入が120万円の場合
120万円÷2,000万円×1000=表面利回り6%
- 特徴
-
計算が非常にシンプルで、投資物件の収益性をざっくりと比較する際に便利。
- 注意点
-
・管理費や修繕費などの経費や、空室リスクは一切含まれていないため、実際の儲け(手残り)とは大きく異なる場合が多い。
・高利回りだからといって優良物件とは限らない(例:老朽化した物件や地方の物件は高利回りになりやすい)。
想定利回り
想定利回りとは、満室稼働を前提に家賃収入がすべて得られた場合を想定して算出される利回りです。主に新築物件や、未稼働物件の広告で使われます。
想定利回り(%)=満室時の想定年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100
- 特徴
-
表面利回りと計算方法は似ていますが、まだ家賃設定が確定していない段階で想定して「もし満室だったら」と仮定して計算されるため、不確実性が高い。
- 注意点
-
将来的な空室率やエリア需要の変動を踏まえて慎重に判断する必要がある。
実質利回り
実質利回りは、実際にかかる諸経費(管理費・修繕積立金・固定資産税など)や空室リスクを含めた、リアルな利益率を示す指標です。



ネット利回りとも呼ばれます。
実質利回り(%)=(年間家賃収入 - 年間経費) ÷ 物件価格 × 100
例
・年間家賃収入120万円
・年間の諸経費20万円
・物件価格2,000万円
(120万円 − 20万円)÷ 2,000万円 × 100 = 実質利回り5%
- 特徴
-
より現実に近い手取り額に基づいた収益性を把握することができる。
- 注意点
-
管理会社との契約内容や物件の維持状況によって変動しやすい。
不動産クラウドファンディングでは「利回り」の定義が異なる
不動産クラウドファンディングにおいては、投資家が不動産の所有権を持たず、運営会社が物件の管理や経費を負担する仕組みが一般的です。
そのため、表面利回りや実質利回りのような自己保有を前提とした計算は用いられず、代わりに予定分配率や実績分配率(過去の運用実績)が提示されるケースが多くなっています。
不動産投資の利回りの相場


では、実際のところ、利回りの相場はどのくらいなのでしょうか。これは物件の種別、構造、エリア、築年数によって大きく異なります。
①オフィスビル
エリア | 期待利回り |
---|---|
東京(丸の内、大手町) | 3.2% |
札幌 | 4.9% |
仙台 | 5.0% |
横浜 | 4.4% |
名古屋 | 4.4% |
京都 | 4.7% |
大阪 | 4.0% |
広島 | 5.2.% |
福岡 | 4.5% |
②賃貸住宅一棟(ワンルームタイプ)
エリア | 期待利回り |
---|---|
東京(城南) | 3.7% |
札幌 | 5.0% |
仙台 | 5.0% |
横浜 | 4.3% |
名古屋 | 4.5% |
京都 | 4.6% |
大阪 | 4.3% |
神戸 | 4.7% |
広島 | 5.0% |
福岡 | 4.5% |
③宿泊特化型ホテル
エリア | 期待利回り |
---|---|
東京 | 4.2% |
札幌 | 5.0% |
仙台 | 5.3% |
名古屋 | 5.0% |
京都 | 4.6% |
大阪 | 4.6% |
福岡 | 4.8% |
那覇 | 5.0% |
高利回り=高リスク? 利回りが変動する理由
一般的に、都心に近く新築であるほど利回りは低く(ローリスク・ローリターン)、地方で築年数が経過しているほど高く(ハイリスク・ハイリターン)なる傾向があります。
これは、物件価格とそれに伴うリスクのバランスによるものです。都心の物件は価格が高い分、空室リスクが比較的低く資産価値が安定しているため利回りは低めです。一方、地方の物件は価格が安い分、空室リスクや家賃下落リスクが高いため、高い利回りが設定されています。
目指すべき利回り水準は?
では、このような背景を踏まえた上で、どのくらいの利回りを目指したらよいのでしょうか。
安定した資産形成を目指すのであれば、表面利回りで3~5%程度を一つの目安とすると良いでしょう。特に、空室リスクが低く、長期的に安定した需要が見込める都心や首都圏の物件では、この範囲の利回りが現実的な目標ラインとなります。逆に、相場からかけ離れた高利回り物件には、相応のリスクが潜んでいる可能性が高いと考えるべきです。
例えば以下のようなリスク要素が隠れている可能性があります
- 建物の状態が悪く、修繕費が膨らむ
- 入居者がつきにくいエリアや間取り
- 近隣相場よりも家賃が高すぎて想定家賃が維持できない
投資で大切なのは、利回りの数字だけにとらわれず、その数値が示す根拠や背景を冷静に見極めることです。数字が高ければ儲かるわけではなく、安定性とリスクのバランスをどう取るかが、長期的な資産形成を目指すうえでのカギとなります。


実質利回りを重視すべき理由


不動産投資では「表面利回り」が注目されがちですが、実際に利益がどれだけ得られるかを判断する上で、より重視すべきなのが「実質利回り」です。その理由は次の5つです。
収益性を正確に把握するため
不動産投資で最も重要なのは、「最終的に手元にいくら残るのか(手残り)」です。表面利回りは、満室稼働・経費ゼロを前提とした理想値であるため、手元にいくら残るのか分かりません。一方、実質利回りは、管理費や修繕積立金などのコストを差し引いた上での利益水準を示すため、より現実的な収益性を把握することができます。税金やローン返済を含めた収支を見積もることで、本当に儲かるのか冷静に判断できるようになります。
不動産投資のリスクを正確に織り込むため
不動産は安定資産と思われがちですが、実際には以下のようなリスクが存在します。
- 空室による収入減
- 家賃下落(築年数・エリア要因)
- 予期せぬ修繕費の発生
- 管理会社の対応品質による収益変動
これらのリスクは、表面利回りでは反映されませんが、実質利回りではこれらを「経費」としてある程度見込んでおくことができます。例えば、数年に一度のエアコン交換費用や、将来の大規模修繕のための積立金などを考慮することで、よりリスクに強い事業計画を立てられます。
精度の高い資金計画を立てるため
不動産投資の多くは、金融機関からの融資を利用します。融資審査では、事業計画の妥当性が厳しくチェックされます。経費を考慮した実質利回りに基づく収支シミュレーションは、金融機関からの信頼を得るためにも不可欠です。
長期的な投資戦略を立てるため
不動産投資は10年、20年と続く長期的な事業です。購入時だけではなく、5年後、10年後の出口戦略(売却)まで見据える必要があります。実質利回りを把握し、長期的な収支を予測することで、いつ、いくらで売却すべきかといった戦略も立てやすくなります。
悪質な不動産会社を見抜くため
不動産業者の中には、投資家にとって不利な情報をあえて開示せず、高い表面利回りだけを強調して物件を売ろうとする会社も存在します。
一方で、実質利回りまで丁寧に提示している企業は、投資家目線での説明姿勢が見られる傾向があります。
ただし、実質利回りを提示しているから必ずしも信頼できるとは限りません。 「なぜ利回りが高いのか」や「どのような前提やコストで計算されているか」を、投資家自身がしっかり確認することが、不動産投資で失敗しないための重要なポイントです。
実質利回りのシミュレーション例


それでは、具体的な数字を用いて、表面利回りと実質利回りがどれだけ違うのかを見ていきましょう。
ケース①:新築マンションの事例
- 物件価格
-
4,500万円
- 想定家賃
-
月13万円(年間156万円)
- 年間経費(概算)
-
45万円
- 管理費・修繕積立金
-
月2万円(年間24万円)
- 賃貸管理手数料
-
家賃の5%(年間9万円)
- 固定資産税・都市計画税
-
年間10万円
- その他(保険料など)
-
年間2万円
この場合の利回りはどうなるでしょうか。
表面利回り:156万円 ÷ 4,500万円 × 100 = 3.47%
実質利回り:(156万円 – 45万円) ÷ 4,500万円 × 100 = 2.47%
表面利回りと実質利回りでは、1%もの差がうまれました。
ケース②:中古ワンルームマンションの事例
- 物件価格
-
1,200万円
- 想定家賃
-
月8万円(年間96万円)
- 年間経費(概算)
-
32.8万円
- 管理費・修繕積立金
-
月1.5万円(年間18万円)
- 賃貸管理手数料
-
家賃の5%(年間4.8万円)
- 固定資産税・都市計画税
-
年間5万円
- その他(保険料など)
-
年間5万円
表面利回り:96万円 ÷ 1,200万円 × 100 = 8.0%
実質利回り:(96万円 – 32.8万円) ÷ 1,200万円 × 100 = 約5.26%
こちらも2.7%以上の大きな差が出ました。中古物件は突発的な修繕費がかかる可能性も高いため、経費を多めに見積もっておくのがポイントです。
実質利回りは、将来的な利益の確度を見極めるための理想的な指標です。
単に「表面利回りが高い=良い物件」と判断せず、将来の支出・収益・リスクを冷静に織り込んで判断することが、不動産投資で後悔しないためのカギとなります。
まとめ


本記事では、不動産投資の「利回り」について、その種類の違いから相場の目安、そして利回りでも最も重要な実質利回りについて解説しました。
特に覚えておきたいのは次の3点です。
不動産投資において利回りは、物件の収益性を測るための便利な「ものさし」ですが、単に数字の高さだけで投資判断をするのは危険です。
大切なのは、利回りの「数字」だけでなく「中身」や「背景」に目を向け、冷静に物件の本質を見極めること、それが後悔のない不動産投資につながります。 「不動産投資は少しハードルが高いかも…」と感じる方には、少額から始められて運用の手間がかからない不動産クラウドファンディングをチェックしてみてはいかがでしょうか。
よくある質問




穴吹興産株式会社 不動産ソリューション事業部
アセットマネジメントグループ課長 穴吹 章彦
【資格】
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
【経歴】
ソリューション事業部の業務に7年従事し、投資用不動産のアセットマネジメント業務を経験。現在は不動産特定共同事業におけるファンドの組成業務に従事し、投資家との契約業務全般を担当。不動産クラウドファンディングの仕組みや専門用語を解説しながら、情報発信を行っている。