「アパート1棟買いで失敗して大きな損失を出してしまった」という投資家の声を耳にすることがあります。
実際、不動産投資の中でもアパート1棟買いは初期費用が数千万円と高額で、失敗時のダメージは計り知れません。
本記事では、実際の失敗事例をもとに、「資金計画の甘さ」「立地選定のミス」「修繕費の見積もり不足」「空室リスクの軽視」「売却戦略の欠如」という5つの主な失敗パターンを詳しく解説します。
さらに、失敗を避けるための7つの具体策も紹介します。
・アパート1棟買いの仕組み
・アパート1棟買いのメリット、デメリット
・アパート1棟買いでよくある失敗例とその回避策
アパート1棟買いとは

アパート1棟買いとは、建物全体と土地をまとめて購入し、複数の部屋を一括で所有・運用する不動産投資の手法です。
区分所有と比べて所有範囲が広く、建物全体の管理や賃料設定を自由に行える点が特徴です。
入居率や修繕計画を自分でコントロールできるため、安定収益と資産価値の向上を両立できるアパート経営の手法として注目されています。
区分所有との違い
区分所有が「マンションの1室」を所有して運用するのに対し、1棟買いは「建物全体と土地」を所有します。
両者の主な違いを表にまとめると次の通りです。
| 1棟買い | 比較項目 | 区分所有 |
|---|---|---|
| 建物全体+土地 | 所有範囲 | 建物の一室のみ |
| 自由に決定可能 | 管理の自由度 | 管理組合の決定に従う |
| 高額(数千万円~) | 初期費用 | 比較的少額(数百万円~) |
| 自己裁量で可能 | 経営判断 | 制約が多い |
| 複数戸で分散 | リスク分散 | 単一戸で集中 |
このように、1棟買いは自由度が高い一方で、初期投資や維持費が大きくなりやすい方法です。本格的に不動産経営に取り組みたい方に適しています。
より本格的な不動産経営を目指す人向けの手法といえるでしょう。

必要な初期費用
アパート1棟買いに必要な初期費用は多岐にわたります。
主な項目は以下の通りです。
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 物件価格 | 数千万円~数億円 |
| 仲介手数料 | 物件価格の約3%+6万円+消費税 |
| 不動産取得税 | 軽減税率適用で課税標準額×3%、一定要件で更に軽減あり |
| 登記費用 | 登録免許税・司法書士報酬など |
| 火災保険料 | 年間数万円~ |
| 修繕積立金・リフォーム費 | 数十万~数百万円 |
| その他諸費用 | ローン保証料や印紙税など |
一般的には、購入金額の20〜30%を自己資金で用意し、残りは金融機関からの融資で調達するケースが多いです。

例えば...
4000万円の物件を購入した場合、用意する自己資金は1000万円程度となります。
突発的な修繕にも対応できるよう、余裕を持った資金計画を立てましょう。
メリットとリスク
アパート1棟買いの主なメリットとリスクを以下に整理します。
複数戸から家賃収入を得られるため安定しやすい
建物全体を所有することで資産価値を維持しやすい
リノベーションや賃料設定など自由度が高い
このように、1棟買いは自由度と収益性が高い反面、リスク管理と資金計画のバランスが不可欠です。適切な物件選びと運用体制が成功のカギとなります。
よくある失敗事例5選


アパート1棟買いは高い収益性を期待できる一方で、準備不足や判断ミスにより思わぬ損失を招くこともあります。
ここでは、投資家に多く見られる「5つの失敗事例」を紹介します。
資金計画・立地選定・修繕費・空室・売却戦略の各ポイントで陥りやすい落とし穴を理解し、失敗を未然に防ぐポイントを押さえましょう。
①資金計画の失敗


アパート経営において、資金計画の甘さは最も大きなリスクとなります。
自己資金を少なくして融資に頼りすぎる
アパート経営では、できるだけ少ない自己資金で始めようとするケースが多く見られます。
しかし、融資比率が高いと毎月の返済額が大きくなり、空室や家賃下落が起きた際に赤字に転落しやすくなります。
また、自己資金が少ないと金利が高めに設定される傾向もあります。
金融機関からの信用を得るためにも、最低でも物件価格の1〜2割程度は自己資金を用意するのが望ましいとされています。
金利上昇リスクを考慮していない
変動金利で融資を受ける場合、金利上昇によって返済額が増えるリスクがあります。
現在の低金利に慣れてしまうと、将来的な金利上昇を想定しない資金計画を立てがちですが、これは非常に危険です。
契約時に決めた金利が返済終了まで変わらない固定金利や予定より早くローンの一部または全部を返済する方法の繰上返済を検討しましょう。
修繕・空室に備えた積立がない
建物は年数が経つにつれて必ず劣化し、外壁や屋根、給排水設備などの大規模修繕費が発生します。また、どんな立地の物件でも一時的な空室は避けられません。
これらの支出に備えた積立がないと、急な出費に対応できず、経営が一気に苦しくなります。
家賃収入の5〜10%を修繕・空室対策のために毎月積み立てておきましょう。
資金計画では、最悪のケースを想定したキャッシュフローシミュレーションを行うことが重要です。
②立地選定の失敗


立地選定はアパート投資の収益を左右する最重要要素です。価格だけで郊外や不便な場所を選ぶと、入居率が下がり長期空室を招く恐れがあります。
家賃の安さだけで郊外物件を購入
郊外の物件は価格や利回りが魅力的に見えますが、入居需要が限られるため長期空室のリスクがあります。
人口減少が進む地域では、将来的な資産価値の下落にも注意が必要となるので、将来の入居需要を人口データで確認しましょう。
地域調査を怠った
エリアの人口動態・開発計画・賃貸需要などを調べずに購入すると、予想外の空室リスクに直面することがあります。
購入前に、周辺の競合物件や家賃相場、大学・企業の動向などをしっかり確認することが大切です。
駅から遠く不便
駅から徒歩15分以上離れると、通勤・通学の利便性が低下し、入居希望者が減少します。特に単身者向け物件では、駅距離やバス便の有無が入居率に大きく影響します。
ターゲット層に合った立地条件を選んだり、駐車場確保やリフォームで付加価値をつけたりすることが、安定経営のカギです。
➂修繕・維持費の失敗


修繕費の見積もりを軽視すると、利益を大きく圧迫します。
築古物件を安く購入したが、すぐに大規模修繕が必要に
築年数が古い物件は購入価格が安く見えても、外壁塗装・屋上防水・給排水管の交換などの大規模修繕が早期に必要になるケースがあります。
結果として、初期費用に加え数百万円規模の追加出費が発生し、想定していた利回りが大きく崩れることもあります。
事前に「長期修繕計画」を作成し、余裕を持った修繕予備費を確保しておきましょう。
外壁や屋根の劣化を放置して雨漏りが発生
外壁のひび割れや屋根の防水劣化を放置すると、雨漏りや内部腐食につながり、修繕費がさらに膨らみます。
軽微な補修で済むうちに対応すれば費用は抑えられますが、放置すれば構造部分まで損傷し、工事期間中の空室損失も発生します。
給排水・屋根・防水などは専門業者に定期点検を依頼してもらいましょう。
設備不良や対応遅れにより入居者が退去
給湯器やエアコンなどの設備トラブルを放置すると、入居者の満足度が下がり、退去や悪評による空室増加につながります。
小さな不具合でも迅速に対応することで、信頼を維持し、長期入居・安定経営を実現できます。
修繕費を「コスト」ではなく「価値維持の投資」と考えることが成功の鍵です。
④空室の発生による失敗


空室が長引くと家賃収入が減り、ローン返済や運営費の支払いに支障が出る可能性があります。
家賃設定が相場より高い
周辺相場より高い家賃を設定すると、内見者が他物件に流れてしまい、空室期間が長期化します。
特に築年数が古い物件や駅から距離がある場合は、家賃を下げるだけでなく、初期費用の割引・フリーレント制度の導入など柔軟な対応も有効です。
エリアの家賃相場や競合物件の条件を常にリサーチし、現実的な賃料設定を行いましょう。
設備や内装が古い
築年数が経過した物件では、水回り設備や壁紙、照明などの古さが入居者の印象を悪くします。
特に単身者や若年層をターゲットにする場合、見た目の清潔感と機能性が重視されます。
古い設備を少しリフォームするだけでも印象が大きく変わり、家賃を維持したまま入居率を上げられるケースもあります。
募集活動が消極的
管理会社任せで募集を行うだけでは、反響が十分に得られないことがあります。
写真の質が低い、広告内容が古い、ポータルサイト掲載数が少ないなども原因になりやすいです。
オーナー自身も積極的に管理会社と連携し、物件写真の見直し・入居特典の設定・SNSや複数サイトでの掲載など、情報発信を強化しましょう。
空室リスクは「発生後の対処」より「事前対策」が重要です。
⑤売却戦略の失敗


出口戦略を立てずに購入すると、売却時に大きな損失を招くことがあります。不動産は流動性が低いため、計画的な売却準備が不可欠です。
売却時期を誤り相場下落に巻き込まれる
不動産市場には景気や金利動向によるサイクルがあります。売却タイミングを誤ると、価格が下がった時期に売らざるを得ず、大きな損失を被ることがあります。
特にローン残債が多い初期段階での売却は、売却額<残債となり赤字になるリスクが高いです。
定期的に相場をチェックし売却タイミングを見極めましょう。
築年数・利回りを軽視して購入
築古物件は家賃収入が減少しやすく、修繕費もかかるため、長期保有には慎重な見極めが必要です。
また、利回りだけで判断して購入すると、売却時に買い手がつきにくい「出口の弱い物件」をつかむことになります。
購入時から「将来、どのタイミングで・どんな価格帯で売却できるか」を想定し、築年数や立地条件、需要層を冷静に分析することが大切です。
買い手ニーズを把握していない
売却時には、自分が「売りたい価格」ではなく、市場が「買いたい価格」でなければ取引は成立しません。
エリアごとの需要層(ファミリー・単身者・投資家など)を理解し、どんな買い手が興味を持つ物件なのかを明確にしておくことが必要です。
購入前から「どんな層に売れるか」「出口の市場があるか」を意識したり、売却前にリフォームや用途変更で魅力を高めたりすることで、将来の損失を防げます。
アパート1棟買い以外の選択肢


アパート1棟買いは高い収益を狙える一方で、初期費用やリスクも大きめです。
そのため、近年は区分マンション投資や不動産クラウドファンディングなど、少額で始められる不動産投資が注目されています。
自分の資金力・投資経験・リスク許容度に合わせて、複数の方法を比較検討することが、堅実な不動産投資の第一歩です。
不動産クラウドファンディングという選択
不動産クラウドファンディングとは、インターネット上で多くの投資家から少額の資金を集めて、不動産を共同で運用する仕組みです。
従来のようにアパートやマンションを「丸ごと購入」する必要がなく、1万円から不動産投資を始められるのが大きな特徴です。
運営会社が不動産の取得・運用・管理を代行するため、投資家は手間をかけずに不動産収益を得られます。
不動産クラウドファンディングの主なメリット
少額から始められる
従来のように数百万円〜数千万円を用意しなくても、手軽に不動産投資を体験できます。
運用を事業者に任せられる
物件の管理・入居者対応・修繕などの手間が一切不要。完全に「おまかせ投資」です。
リスク分散がしやすい
複数のファンドに分けて出資することで、特定の物件や地域に依存しない運用が可能です。
定期的に配当がもらえる
四半期ごとや半年ごとに分配があるファンドも多く、安定したインカム収入が期待できます。
「不動産に興味はあるけれど、いきなり大きな金額は不安」という人に最適な、低リスク・低コストの投資手法です。


まとめ


アパート1棟買いは高い収益が期待できる一方、資金計画や立地選びを誤ると損失リスクも大きい投資です。
成功のためには、修繕費や空室を織り込んだ現実的な収支計画を立て、信頼できる管理会社を選ぶことが欠かせません。
初心者は少額から始められる不動産クラウドファンディングなどで経験を積み、段階的にステップアップするのが安心です。


アパート1棟買いに関するよくある質問




穴吹興産株式会社 不動産ソリューション事業部
アセットマネジメントグループ課長 穴吹 章彦
【資格】
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
【経歴】
ソリューション事業部の業務に7年従事し、投資用不動産のアセットマネジメント業務を経験。現在は不動産特定共同事業におけるファンドの組成業務に従事し、投資家との契約業務全般を担当。不動産クラウドファンディングの仕組みや専門用語を解説しながら、情報発信を行っている。











