不動産クラウドファンディングに注目が集まっていますが、元本割れが心配という方も少なくないようです。しかし、不動産クラウドファンディングに限らず、元本保証がない投資では元本割れがつきものといえます。不動産クラウドファンディングにおける元本割れとはどのような状況なのか、元本割れはなぜ起きるのか。この記事では元本割れが起きる原因や対策について紹介、解説します。
不動産クラウドファンディングの元本割れとは
不動産クラウドファンディングをやってみたいが元本割れが気になるという声があります。投資において資金を回収しきれなくなる元本割れは何としても避けたいものです。
不動産クラウドファンディングにはキャピタルゲイン型とインカムゲイン型、ハイブリッド型の3種類があります。キャピタルゲインやインカムゲインで思ったような金額にならないケースや事業者(運営会社)の倒産などが元本割れの代表的なケースです。
■キャピタルゲインとは?
保有する資産の価値が上昇することで得られる売却による差益です。キャピタルゲイン型の不動産クラウドファンディングを選んだ場合、投資した不動産の価値が思うように上がらず、売却額が想定を下回れば元本割れのおそれがあります。仮に売却額と投資額が同じでも、諸経費を考慮すれば実質的にマイナスになるため注意が必要です。
■インカムゲインとは?
資産の運用中に得られる定期的な収入のことです。インカムゲイン型の不動産クラウドファンディングにおいては家賃収入の分配金が少なくなることで元本割れにつながります。ハイブリッド型の不動産クラウドファンディングはキャピタルゲイン型とインカムゲイン型を組み合わせた仕組みの投資です。順調に運用できていればリターンも大きいですが、両方の元本割れリスクがあります。
不動産クラウドファンディングではキャピタルゲインにしてもインカムゲインにしても、運営する事業者を介して投資に参加します。したがって、事業者の倒産は投資した金額の回収が困難になるため、元本割れの可能性が高いリスク要因です。
元本割れをゼロにはできない
不動産クラウドファンディングを検討するにあたって元本割れは気になるところです。元本割れをゼロにできれば問題はありませんが、元本割れをゼロにはできないのが投資であり、不動産クラウドファンディングも例外ではありません。
投資した物件の価値が想定以上に上がれば十分なキャピタルゲインをゲットできるでしょう。人気物件で家賃が滞りなく入れば、インカムゲインでの運用も成功です。しかし、投資である限り思い通りに運用ができるとは限りません。なんらかの原因で不動産の価値が下がることはあり得ます。また、常に入居者がいて家賃を払ってくれればよいですが、空室や家賃の滞納も考えられることです。
元本保証があれば資産価値の低下や空室にも対応できるのではないかと考えたいところですが、不動産クラウドファンディングには元本保証がありません。したがって、元本割れのリスクをゼロにすることができないのです。ただし、元本割れのリスクを下げる対策はあります。詳細は後述しますが、対策をしないままでの不動産クラウドファンディングは避けるべきだといえるでしょう。
元本割れの原因となる金融危機・自然災害
不動産クラウドファンディングで元本割れが生じる主な原因には、金融危機や自然災害があります。金融危機といえば多くの方が想起するであろうリーマンショックが代表例です。リーマンショック級の金融危機に襲われると、さまざまな投資に影響が及びます。不動産相場の下落にもつながるため、不動産クラウドファンディングにおいても元本割れのリスクが高くなるでしょう。
また、自然災害も経済に悪影響を及ぼすリスク要因です。東日本大震災などに代表される大規模災害においては元本割れの主要な原因となり得ます。その影響は被災地にとどまらず、直接的な被害を受けていない地域における不動産クラウドファンディングであっても無関係とはいい切れないでしょう。 また、台風や大雨による河川の氾濫などは、たとえ局地的なものであっても自身が投資している不動産クラウドファンディング物件を直撃するケースがあります。物件の物理的な被害やインフラへの影響、周辺状況などによっては資産価値の減少につながったり、入居者が退去して空室になってしまったりといった事態につながりかねません。
事業者に起因する元本割れ
事業者の倒産が不動産クラウドファンディングの元本割れにつながることは前述しましたが、事業者に起因する元本割れは倒産だけではありません。倒産には至っていないとしても、事業者の経営に問題がある場合、資金繰りの悪化や管理体制の不備などから適正な運用が行われなくなるおそれがあります。その結果、元本割れとなる可能性は低くないでしょう。したがって、不動産クラウドファンディングを検討する際には、事業者選びも重要になります。
元本割れ以外のリスク
不動産クラウドファンディングにおいて元本割れは第一に考えたいリスクです。しかし、元本割れ以外にも注意すべきリスクがあります。
運用途中でやめにくい
元本割れに続いて考えておきたいリスクとして、不動産クラウドファンディングは運用の途中で終了しにくい点が挙げられます。一般的に不動産クラウドファンディングは途中解約ができません。そのため、多くの場合で途中解約するためには厳しい条件があるということです。
分配金がない
インカムゲイン型の不動産クラウドファンディングでは、空室が続くことによって分配金が思うように入らないケースがあります。空室は元本割れにつながるリスク要因でもありますが、短期で解消できれば最終的には元本割れに至らずに済むケースもあるでしょう。しかし、その間の分配金がない可能性はあります。
優先劣後出資制度
不動産クラウドファンディングには、元本割れのリスク負担を投資家と事業者で切り分ける制度があります。優先劣後出資制度と呼ばれる制度です。
損失分の引き受けは事業者の出資分が先
優先劣後出資制度では、投資家を優先出資者、不動産クラウドファンディングを運営する事業者を劣後出資者と定義します。ここでいう優先劣後は、守られる順番と考えるとよいでしょう。つまり、不動産クラウドファンディングで損失が発生した際に、出資者は事業者に優先して守られ、まずは事業者が損失を負担することになります。
事業者の出資分を超える損失が出ると元本割れ
投資家が優先して守られるとはいえ、必ずしも事業者がすべての損失を負担するわけではありません。あくまでも優先劣後の関係であり、損失が事業者の出資分を超えた場合、超えた分については投資家の負担となります。
元本割れのリスクを下げるためにできる対策
不動産クラウドファンディングに取り組むなら、元本割れのリスクを下げるための対策が欠かせません。投資家としてできる対策を以下で解説します。
利回りだけで判断しない
不動産クラウドファンディングに投資するにあたり、利回りを重視するのは当然のことといえます。いかに投資効率を高めて大きなリターンを得るか、そのために利回りは大きな要素です。しかし、目先の利回りに目を奪われてしまうと元本割れのリスクが高くなるといえます。投資においてハイリターンはハイリスクを伴う傾向があることは、古今東西よく知られていることです。
もっとも、ハイリターンがすべて高リスクだということではありません。また、ローリターンの案件が必ず安全ということでもないでしょう。利回りだけで判断するのではなく、他の要素にも注意を払い、元本割れのリスクを下げることが重要です。
事業者を十分に吟味する
事業者に起因する元本割れで述べたように、選んだ事業者によっては高リスクというおそれがあります。事業者を十分に吟味することで、元本割れのリスクを下げましょう。事業者選びのポイントは信頼と実績です。
・信頼できる事業者か
不動産クラウドファンディングを法的に見た場合、不動産特定共同事業法に定める不動産特定共同事業にあたります。インターネットを介した業務であるため、電子取引業務の括りです。事業者は同法の規定により主務大臣または都道府県知事の許可または登録を受けています。許可や登録のない事業者はそもそも適法性を欠いているため元本割れリスク以前の問題です。許可や登録を得ている事業者のなかから、信頼できる事業者を選びます。
不動産クラウドファンディングは通常はインターネット経由で行う取引であることから、対面で事業者の人間性を見るといったことができません。メールや電話で問い合わせた際に、疑問点への回答がスピーディーで的確であること、説明に不自然な点がないこと、契約を急かさないことが信頼性の判断材料になります。公式サイトの情報量と質のチェックも欠かせません。
・事業者の実績
実績は事業者を選ぶうえで客観的な判断材料になります。不動産クラウドファンディング運用の歴史が長く、好結果を出すノウハウをもっている事業者なら信頼性にもつながります。反対に、歴史が浅かったり、過去に元本割れやトラブルを起こしたりしている事業者は不安が大きいといえるでしょう。
投資先の分散
投資は想定通りの運用ができるとは限りません。不動産クラウドファンディングの投資先を絞ってしまうと、雲行きが怪しくなったとしても途中解約しにくいこともあり、元本割れが生じてしまった際にダメージをもろに受けてしまいます。投資先を分散することで、仮に元本割れが生じた場合でも、他の投資先の利益でカバーすることが可能です。投資先の分散は、1万円という少額で始められる不動産クラウドファンディングならではの元本割れ回避策だといえます。
短期投資で手堅く
元本割れのリスクを下げる対策として短期投資も有効です。不動産クラウドファンディングに限らず、投資は先を読むことが重要になります。とはいえ、目まぐるしく変化する現代において、長期的な予測は困難です。少しでも予測に近い結果を求めるなら、大きな変化が起きにくい短期に特化して手堅く投資する手があります。
優先劣後出資制度を採用してるかチェックする
先に優先劣後出資制度について述べましたが、現実の元本割れを避ける対策の一つがこの制度の有無をチェックすることだといえます。事業者選びや投資先の分散、短期投資は元本割れのリスクを下げる有効な対策ではあるものの、元本割れが起きてしまえばどうすることもできません。しかし、優先劣後出資制度があれば、事業者の出資分までは損失を回避できます。出資割合は契約によって異なるため、しっかり確認することが重要です。
担保価値の見極め
不動産クラウドファンディングでは担保価値の見極めも重要な元本割れリスク回避策です。担保価値の根拠となる路線価や公示地価を調べることで、その物件の価値がわかります。評価額が高い物件であれば、それだけ元本割れのリスクを下げることができるだけでなく、好調な運用も期待できるでしょう。
他の不動産投資と比較してリスキーなのか
不動産クラウドファンディングには元本割れのリスクがありますが、他の不動産投資と比較してリスキーといえるのでしょうか。不動産クラウドファンディングに限らず、元本保証のない投資には元本割れのリスクがあるため、それだけで優劣の判断はできません。
現物投資との比較
現物の不動産への投資は、自身が不動産オーナーとなって物件の全権利を得て責任を負うことになります。不動産クラウドファンディングと異なりまとまった資金が必要ですが、金融機関から融資を受けてレバレッジをかけることが可能です。レバレッジをかけ過ぎると、運用に失敗した際のダメージが大きくなります。少額で運用できる不動産クラウドファンディングは、失うとしても出資の範囲内で済むため、現物投資よりリスキーということはありません。
REITとの比較
REIT(Real Estate Investment Trust)は不動産投資信託(不動産ファンド)で、日本ではJ-REITと呼ばれています。キャピタルゲインとインカムゲインを得る点など不動産クラウドファンディングと共通点はありますが、流動性の高さや価格変動の大きさ、繰り上げ償還があり得る点が特徴で、短期間でも大きな収益が狙える反面リスクもそれなりに大きい投資だといえるでしょう。1万円から始められ、優先劣後出資制度もあり、運用を完全にお任せできる不動産クラウドファンディングのほうがハイリスクということはありません。
不動産クラウドファンディングは元本割れのリスクを知ったうえで取り組もう
不動産クラウドファンディングは元本保証がない投資形態であり、元本割れを完全に回避することはできません。とはいえ、分散投資や優先劣後出資制度、担保価値のチェック等の対策方法を実施することで、リスクを下げることが可能です。不動産クラウドファンディングを始めるならメリットだけでなくデメリット、とくに元本割れのリスクを知ったうえで手堅く行いましょう。